現代九谷焼において、秀逸なシリーズがあります。
九谷焼伝統工芸士 武腰一憲先生による色絵磁器「遠い日」シリーズの『遠来』です。
『本作品は、1995年と2007年も二度にわたり私がウズベキスタン共和国という旧ソ連邦に属していた中央アジアのシルクロードの国を訪れたことがきっかけで生まれました。
それまでは「花鳥風月」の図柄に代表される従来の九谷のなかで制作を続けていましたが、ウズベキスタンのなかでも、サマルカンドやブハラという砂漠の中のオアシスの都市で出会った異文化には、強い衝撃と感動がありました。
サマルカンドブルーと名付けたいような胸にしみるような青空、その下に広がる堂々としたモスクやミナレットが立ち並ぶイスラムの寺院群、威勢のいい掛け声が飛び交うバザールの喧騒、そこを行き交う民族衣装を身にまとった活気に溢れた現地の人々。
ところが一歩路地裏に入ると、何百年もの時の流れがそこだけ止まってしまったかのような錯覚を覚える懐かしい街並み。木陰のベンチに腰掛け、何十年もの間そこに座り続けているのではないかと思わせるように、遠くをみつめる古老。クラクラとしためまいのような感覚におそわれ、いつかこの世界を自分の心象風景として表現できたらと思って帰国しました。
自分の思いを表現する手段はひとそれぞれですが、工芸家としての私の場合は色絵磁器「九谷」です。「九谷」の磁器土による造形と五彩による加飾のなかに、シルクロードの国で胸の中に刻んできた今では遠い記憶という風景を「遠い日」というテーマのもとで再生できればと思って、これからも創作を続けて行きます。』 九谷庄三洞 善平窯 武腰一憲
ある日、BS放送でムハンマド生誕の地にしてイスラム教最高の聖地・メッカ、無数の巡礼者で埋め尽くされ熱気が立ち込めるカアバ神殿、そして、ムハンマドが最後の説教を行ったとされるラフマ山を巡礼する人々を映していました。四国巡礼の旅をする今の日本人にも重なる心情をみたとき、なぜか武腰一憲先生の「遠い日」を連想しました。私たちは、古老と同じなのではないだろか?
今回、「胡蝶蘭」をアレンジしました。老人の行く先を照らす月は、帰路を照らすものであり、日本的に言えば「慈悲」なのかもしれません。何か、心落ちつく精神性の高いものをと思い企画しました。当店では、武腰先生の手から作陶をお渡しいただいています。ご安心くださいませ、本物でございます。
高さ45cm/横25cm/奥25cm
伝統工芸士:武腰一憲 九谷庄三洞 五代目
金沢美術工芸大学工芸科陶磁器コース卒業
1980年・日展初入選
1981年・日本現代工芸美術展 初入選
1984年・日本現代工芸美術展現代工芸賞 受賞(以降4回)
1986年・石川県工芸美術展工芸大賞 受賞
1988年・シンガポール芸術祭選抜出品
初個展、以降日本橋三越本店、横浜高島屋
銀座和光ホール等で多数開催
1995年・日本現代工芸美術展 審査員就任(以降6回)
・第18回伝統九谷焼工芸展大賞 受賞
受賞作石川県立美術館買上
・ウズベキスタン共和国訪問
1997年・第29回日展 「花器・遠い日」特選 受賞
1998年・「九谷焼の100年」展 フランス・パリ 選抜出品
2000年・第32回日展 「花器・過日」特選 受賞
2004年・日展新審査員就任(以降4回)
2006年・現代工芸美術家協会理事 就任
2007年・ウズベキスタン共和国再訪
タシケントビエンナーレ出品
2012年・「美術工芸の明日を担う20人」に選出される
同記念展選抜出品
2013年・日展評議員 就任
2014年・第53回日本現代工芸美術展 「月輪の器」文部科学大臣賞 受賞
2015年・金沢駅新幹線コンコースに陶板制作
2016年・平成記念美術館にて個展開催
2017年・日展改組により特別会員就任
2018年・高輪プリンスホテル「高輪会」にて個展
2019年・第58回日本現代工芸美術展 陶額「記憶」内閣総理大臣賞 受賞
・第21回岡田茂吉賞展(MOA美術館)推薦出品
2020年・「工芸-2020-」東京国立博物館選抜出品
・第74回北国文化賞 受賞
2022年・芸術新聞社刊行「至高の名陶を訪ねる・陶芸の美」に掲載
2023年・第10回日展 「東京都知事賞」 受賞
・奈良緑ヶ丘美術館 『「蒼天の記憶」武腰一憲展』開催
2024年・日本橋三越本店「色絵九谷 武腰一憲展 ―蒼天を往く―」開催
・第63回日本現代工芸美術展審査委員(理事)
・第11回日展審査委員(特別会員)
・第11回日展「内閣総理大臣賞」受賞
今現在、作品「遠い日」発表からは25年以上の年月を隔てはいますが、ご自身の中では生涯取組むシリーズということで、いまだに発展中ということです。